
26.06.2017
MLM (マルチレベルマーケティング)と呼ばれるネットワークビジネスを巡る前代未聞の不祥事で業界が揺れ動いている特定商取引法の厳しい規制を背景に連鎖販売取引の公正化が進み、近年、MLMに対する社会の評価が高まってきているだけに積年の社会的信頼は失墜しかねないMLMの中には、医療関係者も販売に関わるケースもあることから、健全な発展にはコンプライアンスの徹底が不可欠だ。今号では、この不祥事を通してネットワークビジネス業界が抱える問題や今後の課題を探ってみた。
【NEWSクローズアップ】MLMの企業倫理と法令遵守
◆海外メディアも注目
話題になっているのは、『TOTAL SWISS』ブランドのサプリメントでネットワークビジネス事業を展開する株式会社トータルスイス(CEO :王文欽という会社だ。この会社、昨年9月29日に台湾の健康管理局と警察によって、王文欽氏が所有する複数の拠点事務所が家宅捜査を受け、商品及び販促物等が差し押さえられ同氏をはじめ幹部の計7名が逮捕されている。容疑は健康食品管理法違反、衛生管理法、未承認サプリメントの販売、誇大広告等々で、「2015年1月から昨年9月の捜査までの間に累計2億台湾ドルもの売上を上げていた」という。家宅捜査は300人もの警察官や食品検察官が動員されるという物々しいもので、その時の様子は台湾の報道機関をはじめ海外メディアでも報道された。大規模な捜査に加え、 王文欽氏の無資格医療行為で健康被害にあったという会員からの告発が相次いだこともあり国民の耳目を集めた事件だった。現地報道によれば、本年2月11日、いよいよ検察が「健康食品管理法」違反、詐欺などの罪で王氏を含む幹部7名を起訴し、裁判所に王氏の不法所得32億元(118億円)を没収するよう求めた。
◆無視される特定商取引法
「台湾大学で物理学の博士号を取得。ニューヨーク大学で博士(化学と生化学)の学位を取得。ニュールンベルグ(ドイツ)大学で生化学学会のシニア調査官。シンガポール大学医学部客員教授。連合国WHOの衛生組織研究所元メンバー」-。 王文欽氏が公言してきた経歴で、会社概要にも一部を載せている。 いずれも偽りで「台南一中」卒業が彼の最終学歴である。捜査が行われる数ヶ月前、調査機関がニューヨーク大学の「大学記録保管所」に問い合わせをし、「卒業名簿 に該当者なし」との回答を得ている。地検の取り調べに対して、王文欽氏は広告の効能効果の文言や経歴は販売代理店が勝手に誇大宣伝したものだとし、「製品購入した人(会員)は自分の学歴に惑わされ買ったわけではない」と責任を転化している。 事件の衝撃波は日本のトータルスイスにも押し寄せ関係者に動揺が走った。実は同社は日本でも事業展開している。対岸の火事と言って座視はできない。取材に応じた同社の会員は、「王文欽氏の経歴詐称は初めて知りました。会員に対する裏切りだ」と怒りの声を露わにした。無理もない。事件が発生し半年を経た現在も平然と自社のホームページに詐称経歴を載せ、会社概要も修正や回収した形跡はない。明らかな特定商取引法違反である。
◆欠ける企業倫理
日本の業界関係者にも困惑が広がった。業界は不祥事が起こるたびに、培ってきた社会的評価が損なわれ、適正な事業活動をしている企業や普及員までもが世間の厳しい批判を受けるなど、いわば累卵の危きにも似た苦い経験を幾度も繰り返してきた歴史があるからだ。 この不祥事は、「犯罪性が疑われる問題が含まれている」という点において、過去に類例がないほど深刻である。王文欽氏の法令遵守を軽視する倫理観の欠如が、そのまま企業活動にも反映され重大な違法行為を複数起こしているのだ。 「安全性へのこだわりが社名にもなっています」-。 トータルスイスが会社概要で掲げているキャッチフレーズである。「安全性へのこだわり」を裏付ける「品質保証と責任」の証左として、同社は、①スイスでの生産・製造、②GMP認定工場製造マーク、③「スイスビタミン研究所」のマーク、④「ハラール」認証マーク、⑤「ヨーロピアン ヴェジタブル ユニオン」の認証ロゴマーク、⑥「グリーンラベル」の認証マーク等々を記載している。 その会社概要を見れば、誰もが同社が正当な手続きで許諾を受け使用していると思うに違いない。王文欽氏は、それらの組織団体のロゴマークを名刺にまで刷り込んでいる。 もっともGMPマークは、WHOが勧告した製造及び品質管理に関する基準を満たした認定工場を意味しており、その工場で製品を製造すれば付与される。同様にスイスビタミン研究所のマークも、同所で製品分析をすれば依頼者は事実としてその旨を記述することができる。 問題はその二つとスイスの国家名称を除いたマークだ。紙幅の関係で個々の組織や団体の詳細説明は略すが、いずれも権威と歴史がある機関である。もし、同社がこれらの組織団体から正式な認証や使用許諾を受けないでマークを勝手に使用していたとすればどうだろうか。
◆歯牙にもかけない違法行為
結論から言えば、無断で使用しているのだ。違法行為であることは言うまでもない。筆者は諸組織団体から詳細な裏付けの確証を得ている。 ちなみに同社は、社名の横のロゴマークにスイスの国旗を模したデザインを施している。「手続きがすごく大変だった。国に許可を取らないといけないですから」と、トータル・スイスジャパンのゼネラルマネージャの髙山元氏は筆者の取材で語っているが、それを裏付けるものはなにも示されていない。 それどころか、スイス連邦当局は「あたかもSwiss Madeの価値をもったスイス製品を扱っているという誤解を招く陳腐な行為である」と同社を非難している。また、 「European (欧州) V-Label」についても、当事務局は「許諾者ではない。あなたの使用は違法である」と抗議をしているのだ。 「IFNCA」(IslamicのFood and Nutrition Council of America)の「American Halal」のマークについても無断で違法使用している。IFNCAは自らのホームページにある「ブラックリスト」欄に同社が無断使用していることへの抗議を載せ警告をしている。 「ヨーロピアン ヴェジタブル ユニオン」の認証ロゴマークも違法使用で、同社に法令違反である旨の使用停止を求める通達文書を出している。「グリーンラベル」の認証マークにおいても同様だ。王文欽氏は独占的に表示ができるライセンスを所持しているとして、「Green Label Singapore」のマークを違法使用しているのだ。まさに詐欺行為だ。
◆食の安全性にも問題が
筆者が今回の取材調査でもっとも注視したのは製品の安全性だった。製品の表示内容が日本の法令基準に適合しているか。体に摂取するものだけに懸念されたからだ。経歴を嘘で糊塗して会員を欺き、前項のような違法行為をする人物である以上、その不安は拭えるはずがない。ことが名誉棄損や営業妨害に関わる事柄だけに、調査項目によっては行政に持ち込み慎重かつ正確に調べた。懸念は的中した。紙幅の関係で詳細は割愛するが、日本の食品表示基準を定めた法令条項に違反するものがいくつか確認されたのだ。当然ながら、食品表示基準に従って表示されていない食品を販売した場合の罪は重い。 こうした不正や前述した違法による不正行為が、どれほどネットワークビジネス従事者の誇りを傷つけ、また業界の社会的信頰を失墜させることになるのか。その影響は決して小さくはない。 この不祥事が業界関係者に問いかけた課題は多い。企業倫理や法令遵守の徹底など、事業の運営主体者が再認識させられた課題も少なくはない。業界の健全な発展に資す役割を担う業界関連団体が問われた課題も多い。なかでも最大の課題は違反行為の絶滅を図かるために、所管の監督行政と密接に連携し所属会員企業に対して強い導力を発揮することだろうか。 今、ネットワークビジネス関係者は、厳しい社会の目線にどう真摯に向き合っていくかが問われている。
【統合医療ジャーナル】平成29年6月号(Vol.34号・発行日5月25日)より抜粋。